東和マッサージ 中野 の日記
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インドで毎日17万個の弁当をミスなく配達する会社のスゴい仕組み
2015.10.31
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映画になった
インドの弁当配達サービス
インドに、毎日17万5000個もの弁当を配達する老舗のサービスが存在する。名前は「ダッバーワーラー(Dabbawala)」。ヒンディー語でダッバは「容器、箱」、ワーラーは「~する人」という意味。つまり「(弁当)箱を運ぶ人」という意味の造語である。
驚くべきことにこのダッバーワーラー、インフラが整っていないインドで、ほぼすべての弁当を遅れることなく確実に注文主の元に届けられているらしい。配達ミスは、なんと弁当600万個につき1個の割合。歴史も長く、約100年に渡って多くの人に親しまれ続けている。
一昨年の2013年には、ダッバーワーラーが題材の映画『The Lunchbox(邦題:めぐり逢わせのお弁当)』が公開された。しかも、同年のカンヌ国際映画祭にて観客賞を受賞。間違えて配達された弁当によって、一組の男女が偶然めぐり逢う物語。先述の600万個に1個の偶然のミスを「運命の出会い」に置き換えているところが味噌である。 偶然出会った男女がダッバーワーラーを使って手紙のやり取りをする場面は、電子メールやSNSが浸透した現代において、文通という「アナログ」な方法から得られることの素晴らしさを表現している。
ダッバーワーラーはインド西部の大都市ムンバイが発祥地。サービス自体はとてもシンプルで、家庭で調理された料理を「ダッバ」という銀色の容器に入れ、それを「ワーラー」が職場など指定された場所に午前中に運ぶというもの。利用者が食べ終わった午後、容器を回収し、今度はそれを配達を依頼した家庭に戻す。 主な利用客は国内の大都市圏で働くインド人のビジネスマン。毎日、彼らのランチタイムに間に合うよう、5000名ものスタッフが毎日17万5000個の弁当を届ける。冒頭で述べた通り、配達ミスは滅多に起きてない。ダッバーワーラーの公式発表によると、配達ミスは600万個に1個。約3年に1回の割合でしかミスが起こっていないことになる。 ムンバイで愛されているサービスであるのはもちろん、その独自かつ精緻な配送システムは人々を驚嘆させる。世界中から大手物流企業などが見学に来るという。
読み書きができないスタッフでも
誤配しない仕組みとは?
サービスの歴史は約100年と長く、それもあってか利用者からの信頼も厚い。インドという交通網が整備されていない環境で、人の手だけで行われるアナログなビジネスが、これだけもの長い年数続いているというのは目を見張るべき事実だろう。
それを実現しているのは、シンプルかつ精緻なオペレーションシステムだ。配達するスタッフの多くは、読み書きができないインド人男性。ハンデがある彼らがすぐに配達できるよう、集荷と配達をどのグループが分担するかや、配達先の最寄り駅・住所などを、全て記号と数字でダッバに記載。そうすることで、伝達時に発生する怖れのある人為的なミスを防いでいる。何度も述べているが、インドの交通インフラはまだまだ未整備だ。
有料の高速道路でさえ完全に舗装されているというわけではない。新しい道路の建設や既存の道路の整備工事が至るところで行われているが、スローペースで行われているため、さらなる渋滞に拍車をかけている。雨水排水機能が完備されていない道路が多いため冠水が頻繁に起こり、荷物の配送が滞ることは多い。
統計にも表れている。世界経済フォーラムが発行した2005~2006年版の「国際協力報告書」によると、インドの国際競争力指数は調査対象117ヵ国中45位。中国が48位であることを踏まえると、新興勢の一角として決して悪くはない順位だが、評価項目の一つ「基本要件」のインフラ整備部門では65位に低迷しており、同国の国際的評価の足を引っ張ってしまっている。
インドを始めとするアジアの新興国におけるビジネスでは、この配達網が生命線だ。しかし、交通インフラの整備は短期間ですぐにどうこうなるものでもない。そもそもインドは国土が広大で、配達網を行き届かせるのは大都市圏でさえ難しい。
だとすれば、ダッバーワーラーの土地勘に長けたスタッフのネットワークによるアナログな配達技術は、実はものすごい資産なのかもしれない。弁当配達ビジネスだけにとどまらない可能性を感じさせる。